定款の記載事項(株式会社)

任意で記載する事項

第29条「任意的記載事項」については、「通常記載する事項」「任意で記載する事項」に分けてご説明します。
第29条「任意的記載事項」については、主に会社法の「第二編 株式会社」と「第七編 雑則」に記載されていますが、ここでは定款に記載する順番で紹介します。
当事務所では、エクセルで作成した「定款記載事項チェックリスト」にて、関連する会社法の条文及び定款の記載例を記載しておりますので、ここでは記載事項の項目と関連する会社法の条文および解説のみとします。
また、引用している会社法の条文は、説明に必要な部分のみ抜粋しておりますので、ご了承ください。

相続人等に対する売渡しの請求

(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
第174条 株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
《解説》
『相続その他の一般承継』とは、株主が自然人の場合に株主が亡くなったときは、相続人が株主となりますが、株主が法人の場合に法人が消滅したときは、その権利を承継するものが株主となります。
よって、相続人が株主となる事が好ましくないと考える場合は、定款にこの項目の記載が必要です。

1単元の株式の数

(単元株式数)
第188条 株式会社は、その発行する株式について、一定の数の株式をもって株主が株主総会又は種類株主総会において一個の議決権を行使することができる一単元の株式とする旨を定款で定めることができる。
《解説》
証券取引所に上場している大企業の場合は、株主の管理コストを下げるため、単元株式数を定款で定めていますが、株式の譲渡制限がある中小企業では必要ないと思います。

募集株式の発行において,株主に割当てを受ける権利を与える場合

(募集事項の決定)
第199条 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
(株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合)
第202条 株式会社は、第百九十九条第一項の募集において、株主に株式の割当てを受ける権利を与えることができる。この場合においては、募集事項のほか、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 当該募集事項及び第一項各号に掲げる事項を取締役の決定によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(株式会社が取締役会設置会社である場合を除く。) 取締役の決定
二 当該募集事項及び第一項各号に掲げる事項を取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めがある場合(次号に掲げる場合を除く。) 取締役会の決議
《解説》
会社設立後に、新たに出資の募集として株式を発行する場合は、会社法の規定では株主総会の決議によることとなります。ただし、定款に定めることで、取締役会を設置しない会社では取締役の決定で、取締役会設置会社では取締役会の決議ですることができます。

新株予約権の発行において,株主に割当てを受ける権利を与える場合

《解説》
新株予約権の発行についても、上記募集株式の発行と同様に、定款で定めることができます。
新株予約権とは、株式会社に対して行使することにより、当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利のことです。
新株予約権は、ストックオプションとしての報酬や、買収防衛策に利用されます。ストックオプションとは、取締役や従業員が、一定期間内に決められた価格で自社株式を購入できる権利のことで、株価が上がれば取締役や従業員が得られる利益も大きくなるため、業績に貢献した役員や従業員への賞与として利用されます。

株主による招集の請求

(株主による招集の請求)
第297条 総株主の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。
2 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する」とあるのは、「有する」とする。
《解説》
株主総会の収集の請求をする事ができる株主は、上記の通り議決権の制限がありますが、定款で議決権の制限を軽減することができます。

株主提案権

(株主提案権)
第303条 株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない。
《解説》
取締役会を設置しない会社では、株主は1株以上有すれば、株主総会の目的とする事項に対して提案権を有しますが、取締役会設置会社では、上記の通り議決権の制限がありますが、定款で議決権の制限を軽減することができます。

株主総会の招集手続等に関する検査役の選任

第306条 株式会社又は総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。
《解説》
上記規定の通り、株主の議決権の要件を、定款で軽減することができます。

議決権の数

(議決権の数)
第308条 株主(株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。
(株主の平等)
第109条 株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
(株主の権利)
一 剰余金の配当を受ける権利
二 残余財産の分配を受ける権利
三 株主総会における議決権
《解説》
株主の議決権は原則として、1株1議決権ですが、公開会社でない株式会社の場合は、例外を定款で定めることができます。

取締役の資格

(取締役の資格等)
第331条
2 株式会社は、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない。ただし、公開会社でない株式会社においては、この限りでない。
《解説》
上記規定の通り、公開会社でない株式会社の場合は、定款で取締役が株主でなければならない旨を定めることができます。

取締役会の決議

(取締役会の決議)
第369条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
《解説》
定款によって、取締役会の決議の要件を加重することができます。

取締役会の決議の省略

(取締役会の決議の省略)
第370条 取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
《解説》
上記規定を定款に記載することで、取締役会の決議を簡略化することができます。

監査の範囲

(定款の定めによる監査範囲の限定)
第389条 公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第三百八十一条第一項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。
《解説》
上記規定の通り、公開会社でない株式会社は、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定することができます。

業務の執行に関する検査役の選任

(業務の執行に関する検査役の選任)
第358条 株式会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、次に掲げる株主は、当該株式会社の業務及び財産の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。
一 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主
二 発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主
《解説》
上記規定の通り、株主の議決権及び保有株式数の要件を、定款で軽減することができます。

取締役及び監査役の責任免除

(取締役等による免除に関する定款の定め)
第426条 第四百二十四条の規定にかかわらず、監査役設置会社(取締役が二人以上ある場合に限る。)又は委員会設置会社は、第四百二十三条第一項の責任について、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは、前条第一項の規定により免除することができる額を限度として取締役(当該責任を負う取締役を除く。)の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができる。
《解説》
上記規定の通り、監査役設置会社では、免除することができる額を限度として、取締役の過半数(取締役会設置会社は取締役会の決議)により、責任を免除する旨の定款の定めを記載することができます。
ただし、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある場合は、上記の責任免除の規定を記載することはできません。

会計帳簿の閲覧又は謄写の請求

(会計帳簿の閲覧等の請求)
第433条 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
《解説》
上記規定の通り、株主の議決権及び保有株式数の要件を、定款で軽減することができます。

解散の事由

(解散の事由)
第471条 株式会社は、次に掲げる事由によって解散する。
一 定款で定めた存続期間の満了
二 定款で定めた解散の事由の発生
三 株主総会の決議
四 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。)
五 破産手続開始の決定
六 第八百二十四条第一項又は第八百三十三条第一項の規定による解散を命ずる裁判
《解説》
上記規定の通り、『存続期間』あるいは『解散の事由』を定款で定める事ができます。

 
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